きっかけは夕暮れだった
それから毎日、夕暮れになると夕妃と美代はこの屋上に来ては夕暮れを見つめていた。
夕暮れを見つめながら、美代は夕妃に両親について相談した。
夕妃は美代の相談を聞いて、アドバイスしたり、励ましたりした。
一週間も経たない内に2人は親友のように打ち解けあっていた。
今日もまた2人はこの屋上に集まり、夕暮れを見つめていた。
今日の夕暮れは、雲一つなく、夕陽が綺麗に見えた。
2人は他愛のない話をしながら夕暮れを眺めていた。
すると、屋上の扉が開く音がした。
「誰か来た」
2人は屋上の扉に注目した。
扉には黒い学ランを来た黒髪の少年が立っていた。
顔立ちがよく、運動をやっていそうな子だった。
スクールバックも持っているから学校の帰りなのだろうと2人は推測した。
「男の子だ」
「年下みたいだね」
小声で話していたためか、少年には夕妃と美代を見向きもしなかった。
夕妃と美代が見守る中、少年は太陽に向かって真っ直ぐに歩いた。
「ねぇ、まさか」
美代の声が震えていた。
夕陽の光のせいで、夕妃には美代の顔色がいいように見える。
しかし、美代の顔色は、本当は血の気が引いたような青色をしているだろう。
お互いの脳裏に数日前に美代の行動がフラッシュバックした。
すぐに2人はお気に入りの場所から飛び降りた。
2人の着地する音に気付いた少年は2人の方を向いた。
「ストープッ!!!」
夕妃と美代は少年に飛び掛かり、少年をコンクリートに押しつけた。
押しつけられた少年は後頭部をコンクリートにぶつけ、同時に痛っと言った。
頭の痛みに少年が顔を歪ませても夕妃と美代は少年を叱った。
「早まっちゃダメ!」
「…はい?」
「よく考え直して!」
「何をですか?」
「へっ?」
少年から予想外の返事が返ってくると、2人はきょとんとした。
2人がきょとんとしている間、少年はコンクリートにぶつけた部分を手で撫でた。
「あんた、自殺しようとしたんじゃないの?」
「そんなことはしません。俺はただ景色を眺めようとしただけです」
「そういって誤魔化そうと!」
「しません。本当です。あなた方こそ、ここで何をしていたのですか?」
少年は不機嫌そうな顔をしながら夕妃と美代を見た。
確かにこんな人気がないところでいる方も怪しかった。
「太陽を見送っているの」
「太陽を?」
「そう」
「俺も一緒にいいですか?」
「えっ?」
「あなたも太陽好き?」
「朝焼けと夕焼けの景色が大好きなんです」
「そうなんだ!じゃあ、一緒に太陽を見送ろう!」
太陽が好きというだけで夕妃と美代は少年と仲良くなった。
彼の名前は曙樹希。
近くの中学に通う中学2年生だそうだ。
運動が好きだが、部活動には所属しておらず、帰宅部だそうだ。
太陽が好きで、いい場所はないかと探していたらここに辿り着いたそうだ。
仲間を見つけられて嬉しいです、と樹希は嬉しそうに笑っていた。
夕妃と美代にとっては、同じ趣味を持った弟ができたように思えた。
それから毎日、放課後になると樹希も加わって、3人で夕暮れを見ていた。
「日が暮れるときの空の青さって、あたし好き」
「私は太陽の橙がなくなるから微妙」
「夕妃さんは太陽Loveですからね」
「仕方ないじゃん。好きなんだから」
夕妃は太陽に向かって投げキッスした。
それを見た美代と樹希は笑った。
「…ここの風景は義妹にも見せたいですね」
「呼んでくればいいじゃない!」
「今は遠いところにいるので、それはできません」
樹希は苦笑しながら答えた。
「そっか」
「あたしも幼馴染に見せたいな」
「来させればいいじゃないですか」
「平日は無理。部活があるからね」
「じゃあ、今度の土日につれてきたらどうですか?」
「そうする!」
「ねぇねぇ、その幼馴染とどんな関係?」
「えっ!?た、ただの幼馴染だよ!」
「本当かなぁ?」
夕妃は嬉しそうに笑いながら、美代の幼馴染の顔を頭に思い浮かべた。
嬉しそうに笑う夕妃を見て、美代は慌てて手を横に振った。
「ほ、本当にただの幼馴染なんだから!」
「美代さん、顔が真っ赤ですよ」
「そ!そんなことないよ!太陽のせいだよ!」
「でも、夕妃さんよりも顔赤いですよ」
「えっ!嘘だぁ!」
美代は顔に手を当てて必死に否定していた。
必死に否定する美代を見て、夕妃と樹希は笑った。
2人が笑うと、からかわないでよ、と美代は頬を膨らませた。
「あ。太陽沈んじゃったね」
話をしている間にいつの間にか辺りは暗くなっていた。
太陽がいた方を見ると、太陽の姿はもう海の向こうへと沈んでいて、微かな光が見えるぐらいだった。
空は、夕暮れの空から夜の空へと変化していて、太陽が沈んだ反対側を見ると、星と月があった。
「それじゃあ、帰りますか!またね!2人とも!」
そう言って夕妃は特等席から飛び降りて、屋上の扉へと走って行った。「あっ!待ってよ夕妃!一緒に帰ろうよ!」
屋上の扉を開けて出て行く夕妃を追おうと、美代も特等席から飛び降りた。
美代が特等席から飛び降りた瞬間、屋上の扉はもう閉まっていた。
すぐに夕妃に追いつこうと、美代が閉まった屋上の扉を開けた。
しかし、そこには夕妃の姿はなかった。
もう下りたのかと、階段の下を覗き込んだが、夕妃の姿はおろか、階段を降りる音もしなかった。
「夕妃、帰るのはやー」
「きっと、家が厳しいのでしょう」
美代の跡をついてきた樹希は苦笑しながら答えた。
「そうだね。それにまた明日会えるし」