幸せな思い出と絵

 

 


申し訳なさそうに笑う盛岡。
こういう盛岡のような顔をされてしまうと、絵梨佳は何故か引き受けてしまう。
例え、それがやりたくないなと思っても。
そんなことで、誰かに頼まれ事されると断れない絵梨佳はつい頷いてしまった。

「サンキュ!実はな・・・」

盛岡は教卓の上に置いてあったメモ張を絵梨佳の席まで持って行って、メモ張を開いてあるページを見せた。
そのページには黒板に書いてあることと全く同じことが写されていた。
多分、絵梨佳が態々前まで来ることに悪いと思ったのだろう。
本人曰く、もし、間違って誰かが消してしまってもいいように授業中書いたそうだ。
メモ張に書いてある文字を持っている銀色のシャープペンシルの先で示しながら説明していった。
内容はお楽しみ会を盛り上がらせる為に景品を用意して、風船バレーかビンゴゲームで渡そうということだった。
他のゲームは少人数に絞りこむのがとても大変だから、景品なしでゲームをやるそうだ。
景品目当てで他のゲームではあまり盛り上がらないかもしれないと、思いこの景品が出てくるゲームは一番最後に回すそうだ。
盛岡の説明を聞いていて、本当に熱心だなぁと、絵梨佳は思いながら盛岡の顔をチラッと見た。
目が真剣だけど、顔全体は優しい感じで何故か安心感がした。

「・・・ということなんだ、だから景品を一緒に決めてくれないか?」

景品といっても、男女は好みが違うから絵梨佳にも協力してもらいたいらしい。
女の子が好きそうなものは大体予想出来るから多分大丈夫だろう。

「うん、いいよ?」
「本当?じゃあ、今から行かないか??」
「うん・・・ええ!?」
「どうかしたか?」
「な、なんでもないです・・・」

絵梨佳がそう言うと、変な奴だなと、言ってまた笑った。
盛岡は自分の鞄の中にペンケースとメモ張を入れると、行こうぜと、言った。
平然としている盛岡に絵梨佳は戸惑った。
誰かと一緒でもないのに郊外で男子と歩くなんて絵梨佳にはない経験だから、頭の中がパニックになりかけていた。

「お、お金はあるの!?」
「ああ、ある」

鞄の中から黒いプーマの財布を取り出して絵梨佳に見せた。
―準備がよいこと・・・。
絵梨佳は口に出さないように心の中で思った。
行こうぜと、盛岡が歩き始めると、絵梨佳は了承してしまった自分を恨みながら仕方なく後についていった。
教室の電気を消して、廊下へ出てチラッと外を見てみると空は先程より低い位置に太陽が見えた。
廊下を歩いて階段を下りていると、何処かから歌声が聞こえてきた。
3年生はもう授業が終わって特別日課となったが、1,2年生はまだ授業がある。
そういえば1、2年の頃、早く帰宅する先輩達を見ていいなぁ、とみんなで声を揃えて言っていた。
今、覚えば、どうせそうなるんだから、羨ましがる必要はないと、思ってしまう。
上履きから外靴に履き替えて3年生が誰もいないと思われる校舎を出た。
教室を出てからずっと、何故か会話が途切れていた。
急にしゃべらなくなった盛岡の後ろをチラチラと見ながら絵梨佳は下を向いて歩いた。

「・・・最初、どこの店に行く?」
「えっ?えっと・・・じゃ、じゃあ、いろいろお店がある駅ビルに行かない?」
「了解、平井、緊張しているのか?」
「そ、そんなことないよ!」

盛岡は絵梨佳の様子が可笑しそうに笑っていた。
笑っているのを見ると、先程まで気まずくなった雰囲気が和やかになったような気がした。
その後は自然と会話が出来て、いろいろなお店を回り、男女と分けて品を何個か買い、2人は無事に景品の為の買い物をすませた。
買い物をすませるたびに荷物が多くなっていくから、絵梨佳と盛岡のどちらが持つのか毎回言い合っていた。
だが、盛岡に叶わない絵梨佳はつい了承してしまい、ほとんど盛岡が持つことになった。
途中、周りの視線が気になった絵里佳だが、それに気付いた盛岡があんまり気にすんなと、言って笑ったのを見て気にしないようにした。

「・・・よし、これでなんとかなる。平井、わりーがもう1つ頼み事してもいいか?」
「何?」
「林原にお礼の色紙や何かあげないか?」
「林原先生に?」
「一年間、行事や進路のこととかでたくさんお世話になっただろ?そのお礼ということでだ」

林原先生は体育祭のとき、応援団の件でつまっていたときいろいろと提案してくれたり、進路のことでも夜遅くまで資料を作ってくれたり、学校のことを知りたいというと、時間を作ってわざわざ調べてきてくれたこともあった。
いろいろとお世話になった林原先生へのお礼に色紙や品物をあげるのはいい考えだ。
そんなことまで考えていた盛岡にもし、頑張り賞という一生懸命な人にあげる賞があったら、受賞されてもおかしくない。

「いいじゃないの?」
「そこで、色紙に絵を描いてくれないか?」
「あたしの!?」
「ああ、平井は絵うまいだろ?美術の先生にいっつも誉められているじゃねぇか」

美術の時間に水彩画とか水墨画を描くと、大抵誉められているのが絵梨佳だった。
その所為か、一年生の頃からずっと美術はいつも10だった。
テストの方はいつも美術だけに力をいれている所為か、85点以上は取っていた。
ちなみに他の科目はというと、苦手な数学はいつも悪く、得意な国語はあまり勉強していないのに何故かいい点数を取れた。

「そんなにうまくないよ・・・何の絵を描けばいいの?」
「ここらへんに春らしい絵を描いてほしいんだ。あと、出来れば先生の名前とコメントを書く枠も作って貰いたんだが・・・」
「わかった、いつまでやってくればいい?」
「出来れば明日、放課後に出来ないか?」
「はい!?」

つい大声を出してしまった絵梨佳は急いで手で口を塞いだ。
―何を言い出すの、この人は!物を頼む面では別にいいけど、どうして放課後なの!!
頭の中でパニックになっていると、また盛岡は笑い出した。

「平井って面白いな、じゃあ頼むぜ」
「は、はい・・・全部で何枚あるの?」
「2枚」
「じゃ、じゃあ、一枚は今日描いてくるよ」
「いいのか?」
「うん。帰ってもやることないし」
「そうか、じゃあ、頼むな」
「了解、何を描けばいい?」

盛岡から色紙を一枚受け取ると、景品が入っている袋の中に入れながら尋ねた。

「春らしいのか卒業っぽいのにしてくれないか?」
「わかった」

絵梨佳が笑顔で答えると、盛岡が一瞬だけど目をそらしたような気がした。

「平井の家はどっちだ?」
「あたしは・・・こっち」
「俺と同じ方向だな、家まで送るよ」
「えっ!悪いよ・・・」
「いいって、買い物を手伝ってくれたお礼だ」

盛岡の笑顔に弱いと断定していいほど、盛岡の笑顔を見てしまうと絵梨佳は引き下がれなくなっていた。
断れなくなってしまった絵梨佳は仕方なく頷いた。
こんな絵梨佳を見たら歩深が見たら、大ニュースと言って歩深と仲の良い人達に広められるかもしれない。
帰り道に誰にも会いませんようにと、願いながら絵梨佳は盛岡と帰路を歩いた。
盛岡と一緒に帰るのは友達と一緒に帰るときぐらい、それ以上と言ってもいいぐらい楽しかった。
絵梨佳が知らない先生の一面のことや、絵梨佳のクラスの子と他のクラスの子が付き合っていることや、最近人気の芸能人のことやいろいろ話した。
知らない情報を盛岡はいっぱい持っていて絵梨佳が驚く場面が多かった。
楽しい時間は短く終わるものだとよく言われるがまさにそうだった。
会話をしているといつの間にか絵梨佳のマンションの前に着いた。
絵梨佳のマンションは各地に点々とあるライオンスヒルドゥのマンションの1つだった。

「あ、あたしここだから」
「そうか・・・・・・じゃあ、また明日な」
「うん、また明日ね」

途中黙ったのが気になったが気にしないようにした。
お互い手を振ると、盛岡は絵梨佳よりも少し多い荷物を持って暗い夜道を一人で歩いていった。
少しだけ盛岡の後ろ姿を見つめると、絵梨佳はマンションのゲートを通った。

 

 

 

To be continued

 

 

 

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