「帰ってきたか。咲、大丈夫か?」
「はい」
いろいろなことが巡る思考を止め、咲は今できる範囲で笑った。
ちゃんと笑っているか咲は少々不安だった。
しかし、誰も不安げな顔をしなかったから、咲はほっとした。
咲の後ろから草茅姫が前へと進み出た。
草茅姫を見た櫻花はとても驚いていた。
「草茅姫様!?」
「久しいな、櫻花。そなたに話があって来た」
「桜の木についてですか?」
「それだけではない」
「それでは…咲のことですか?」
話の中心人物になろうとしている咲はさっき草茅姫の話を思い出した。
自分が核となることをここへ来るまでの間、咲は考えていた。
櫻花はこのことを知っていたのか、咲はふと気になった。
「そうだ。櫻花、咲希が取り出されたとき次の核となるのが咲だと何故教えなかった」
「お話をしようとしても、機会がなかったからです」
「言わないで言おうと思ったのではないか?」
草茅姫が櫻花を睨むと、櫻花は同じような威力を持つ冷静な目で返した。
「そんなことはありません。それに咲を核にさせません」
「だが、可能性がある。だからこうして神器を集めているのではないか?」
「…そうです。彼女は自分が花守の人間だとは存じていません」
2人の会話の中で咲の知らなかった事が浮上した。
咲が櫻花と同じ花守の人間であること。
だが、咲は櫻花の言うとおり生まれてから誰にも自分は花守の人間だと告げられたことがなかった。
「咲は花守の人間なのか?」
「はい。私の姉が産んだ子供の子供ですから本当です」
「えっ!?私と村長って!」
「同じ家系となる」
「き、聞いたことないよ!」
「多分、恵が話さなかったのだろう。咲希と瓜二つのお主が咲希と同じ運命を辿ってしまうのではないかと、思ったのだろう」
咲は村を出る前の恵の顔を思い出した。
娘がただ桜を咲かすため、旅に出ると言った。
それだけなのに恵は咲がずっといなくなってしまうような悲しい顔をしていた。
多分あのとき、恵は覚悟したのだろう。
咲が1000年前の咲希と同じように桜の木の核になってしまうことを。
それを知らずに飛び出した咲は申し訳なく思った。
「ちなみに咲は咲希とも同じ家系だ」
「ええ!?」
「櫻花が咲希の妹の子孫だからな。咲もそうなる」
「だから、咲希様と瓜二つで同じ力が使えるのじゃ」
「じゃあ、夢に柊さんが出たのは…」
「力に引かれたのじゃろう」
櫻花はゆっくり頷きながら言った。
―繋がっている。
咲は事の全てが一本の木の根が無数に伸びているかのように繋がっているような気がした。
根の先から辿ると、その先にはきっと咲希という人物がいるのだろう。
今までの出来事と出会いは全て、咲希という人がいたから、事が起こり、さまざまな人と出会えたりしたのだろう。
きっと今、桜の力を狙っている敵は、1000年前に桜の木を狙っていた者達の仕業なのだろう。
咲はそう推測しながら、神器を狙って咲達に襲い掛かってきた鬼や操られた狼達のことを思い出した。
あの鬼達を従えたり、狼達を操ったりしていたのだから、敵は強敵だろうと咲は1人考えていた。
『咲希…』
考える咲の頭の中で柊の声がした。
咲は顔を上げて、辺りを見渡した。
しかし、辺りはいつも見る夢の世界ではなかった。
『私を止めて、咲希』
「えっ?」
咲は再び辺りを見渡した。
だが、声の持ち主の姿は何処にもなかった。
咲があまりにも辺りを見渡すため、傍にいる蕾が不思議そうな顔をしていた。
「どうしたの?咲?」
「今、声がしなかった?『私を止めて』って…」
咲がそう言っても、蕾達は首を横に振るだけだった。
鏡を見つめていた楓は驚いて、傍にいる櫻花を見た。
「櫻花様!桜が!」
「すぐに結界を張るのじゃ!」
楓は頷いて、目を閉じて鏡と向き合った。
櫻花は思いつめたような表情を浮かべていた。
突然、楓と櫻花が慌て出したから、咲達には何が起こったのかわからなかった。
「な、何が起こったの!?」
「何者かが、桜の木の核を奪いに来たのじゃ」
「咲希様は!?」
「まだ取り出されていない。だが、時間の問題じゃ」
咲はさっき聞こえた柊の声を思い出した。
『私を止めて、咲希』
ハッキリと柊はそう言っていた。
柊が自分を止めて欲しいと咲に訴えていた。
その言葉にはどんな意味が含まれているのか咲にはわからなかった。
―もしかして、今、桜の木を狙っているのは…。
咲は首を振って、頭からその考えを無くした。
優しい柊がそんな酷いことをしないと咲は信じているからだ。
「敵は何者だ?」
「鏡には鬼が映ってます」
「じゃが、鬼だけではこんなことなどできぬ。鬼達を操っている奴がおるのじゃ」
「一体誰が!」
「とにかく核がいる木へ向かうのじゃ」
「その木はどこにあるの?」
「花盛村の中心にある桜の木じゃ」
櫻花の言葉に咲は衝撃を受けた。
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