枯ノ森。
そこに生えている木々の葉が全て枯れ葉となっているからそんな名前がついている。
枯れていると言われているが、その状態がその木々がしっかりと活動している証拠だった。
もし、枯れ葉が一枚も付いていない木があったとすると、その木は眠っているのか、死んでしまったのである。
木が眠る時期は木の種類にことなっている。
ただし、期間は全て3ヶ月と決まっていて、3ヶ月経つと枯れ葉がまた生えてくるのだった。
そんな枯ノ森がどうして危険と言われているのかというと、そこには怪物が住んでいると言い伝えられているからだ。
店員の話通り、現に怪我をして帰って来た人もいる。
そんな危険と言われる枯ノ森の前にロザスと龍魔は立っていた。
「さてと、甘福草と天玉についてはバッチリだぜ!探すぜ!龍魔!」
「ああ!」
気合い充分な2人は恐れることなく枯ノ森の中に入って行った。
森の中は辺り一面枯れ葉を付けている木ばかりだった。
歩く度に枯葉が形を崩し、小さな破片となる。
周りを見渡してみるとが、木も草も全て茶色に枯れていた。
「ホント、ここって枯れているよな」
「枯ノ森だからな。こんな物が本当にあるのかって疑いたくなるよ」
「図鑑に載ってんだからあるんだろ。早く見つけよーぜ。遅くなると親父がうるせーし」
「そうだな」
2人は心当たりのある場所を廻ってみた。
ここは何回か先生に連れて来てもらったことがあり、先生から以前実の成る木や花が咲いている場所を聞いたことがあった。
だけど、そこには他の実や花が咲いているだけで目当ての物はなかった。
他にも歩いている間、怪しいと思った場所にも行ってみたが、何処にも咲いてなかった。
2人は一旦足を止めて、図鑑の詳細をもう一度見直してみた。
「甘福草も天玉も水がある場所に生える…枯ノ森にそんなところがあるか?」
「オレの記憶ではそんなところはないぜ」
「だよな…だけど、木が生きているんだからどっかにあるはずなんだ」
「あー!おばちゃんにちゃんと場所を聞けばよかった!!水の在処なんてどうやってわかるんだよ!」
「…そういえば、俺達って雷の力を使えるんだよな」
「あっ!それなら見つけられるんじゃねーか!」
2人は地面に手をつけて、意識を集中させた。
手から電気が流れ、地面へと広がっていった。
流れていった電気を頼りに水の在り処を探してみた。
しかし、自分達の力では地面の奥深くまでの水の流れを感知することが出来ないようだ。
「どうする?」
「守護精を使えばいいだろ?」
「あっ!そっか、ライガ!」
「レイガ」
2人がそれぞれ自分達の守護精の名を叫ぶと、2人の背後に稲妻の塊が現れた。
塊は徐々に形を変えていき、ロザスの後ろには大きな獅子のような獣、龍魔の後ろには大きな鷲のような鳥が現れた。
『全く、ロザスは考えない奴だな』
ロザスの守護精である獣の姿をしたライガは呆れ顔で呟いた。
「うるせー!時間がねーからとっととやってくれ!」
「よろしくな」
『了解』
獣と鳥は主人の指示に従って、自分達の足元に電気を流した。
その様子をロザスと龍魔は黙って見ていた。
しばらくすると、獣と鳥は顔をあげて、同時に同じ方向を向いた。
守護精達が向いた方にロザスと龍魔は顔を向けた。
向いた方向にはもちろん枯れ葉がたくさん付いた木がたくさん立っている。
「あっちか?」
『そうだ』
「サンキュッ!助かったぜ」
「ありがとう」
2人がお礼を言うと、ライガとレイガは雷の塊となり姿を消した。
2人は急いで水があると思われる方向へと走って行った。
示された方向へ進んで行くにつれて、枯れ葉の付いた木の本数が多くなっていった。
木が多くなっていくと共に、木に付いている枯れ葉の枚数が増えた。
そのためか、枝と枯れ葉が空を覆われていく。
空が覆われて、辺りは薄暗くなっていく。
光が遮られているからか、足元がじめじめとして走りにくくなってきた。
2人は走るスピードを上げた。
疲れが増して感じるが、2人はそんなの気にしない。
道のところどころで木の根が出ていたり、木が倒れたり、大きな岩が置いてあったりした。
2人は障害物競走をするかのように走りながら乗ったり、飛び越えたりして障害物を避けた。
一生懸命走っているため、2人の身体が熱くなると同時に疲労を感じた。
だが、お互いがお互いに負けたくないと対抗心を持ち、ペースを少し上げて2人は走り続けた。
走り続けると、枯れた木々の間から岩の外壁が見えてきた。
外壁は大きな岩がいくつも積まれているようで、迫力があった。
この森に訪れたことがある2人だが、こんな物があることは知らなかった。
おそらく、周りの高い木が覆い茂っていたから今まで気付かなかったのだろう。
壁の近くまで行くと、洞穴があった。
中は真っ暗で何も見えないが、中からジメジメとした空気が流れ出てくる。
「龍魔」
「行こう」
龍魔が手を前にかざすと、辺りの様子がちゃんと分かるぐらい明るい光の玉が出てきた。
2人は足元に気を付けて洞窟の中へと足を進めた。
足元は岩場がゴツゴツとして、足場が悪い。
しかも、奥に進むに連れてだんだん滑りやすくなってきた。
もし、灯りがなければ岩に躓いて転んでいたかもしれなかった。
慎重に足を進めていくと、だんだん足音が響いている音がしてきた。
まるでロザスと龍魔以外の人がここにいるかのように足音が反響していた。
それが面白くってロザスが遊ぼうとすると、すぐ龍魔に阻止された。
気を取り直して歩いて行くと、今度は奥から涼しい風が吹いた。
そして、微かに心地よい水の流れる音が聞こえてきた。
「水の音だ!」
「ロザス!走るな!」
ロザスが走って行くと、龍魔も慌てて後を追いかける。
滑りそうになることがあるが、なんとかバランスをとって2人は走る。
水の流れる音はだんだん大きくなっていく。
ちゃんと水の在り処に近付いているらしい。
進んでいくと、この洞穴の終点と言えるぐらい広い空間が見えた。
広い空間に入ると、足音が綺麗に木霊した。
上を見上げると天井がとても高かった。
前を見ると大きな泉があった。
泉の水は泉の底の様子がよく分かるぐらい透き通っていた。
入口から下へと下っていったから、この水は地下水と考えられる。
それにしては、充分と言えるぐらい綺麗な水だった。
泉の中心には一本の木と、その回りに緑の草花が生えていた。
「行ってみよーぜ」
ロザスは何の躊躇いもなく水に浸かって行く。
少ししてから龍魔も後に付いて行く。
水は冷たいが、丁度良いぐらいだった。
底はツルツルとした岩ではなく、柔らかい砂のようだ。
けれど、ロザスと龍魔が歩いても水は濁らなかった。
中心へと近付くに連れて、水の深さが少しずつ増していく。
2人の服が水を吸って、だんだん重くなっていく。
だが、2人はそれには気にせず目の前の木へと期待を抱きながら進む。
木の下に咲く草花はどれもあまり見たことがないものばかりだった。
その中で、さっき図鑑で見つけた草が何本か生えていた。「龍魔、これか?」
「ああ。甘福草だ」
龍魔が持っている図鑑を見ると、目の前にある草と同じ草が載っていた。
念のため、葉の形など、違いがないか照らし合わせてみたが、図鑑に載っている物と全く同じだった。
黒砂糖のような茶色い葉の甘福草からは甘い香りがした。
茎はしっかりとしていて、ちょっとやそっとのことでは折れないぐらい頑丈だった。
確認が済んだ2人は、採取方法を確認した。
「それじゃあロザス、任せた」
「りょーかい」
腰に下げている短剣を持って、ロザスは1本の甘福草の茎を切った。
切った先端から透明な液体が出てきた。
龍魔は素早くビンを取り出して透明な液を入れた。
たった一本なのに1リットルのビンが満杯になった。
液が漏れないように龍魔はしっかりと蓋をして、ウエストポーチの中に入れた。
残りは天玉である。
「よし!後は天玉だ!きっとあの木の実だから早く手に入れよーぜ」
「そうだな」
甘福草を手に入れた2人のテンションが上がっていた。
図鑑に書いてある天玉の採り方をもう一度見直して、早速採取し始めた。
しかし、いざ採りかかろうとしたとき、2人は困ったことに気付いた。 草花が生えているのはいいが、中心の木までそれを倒して行かなきゃいけないのだった。
「植物によっては貴重なものもある。
一部にはたくさん生えていてもそこまで成長するために長い時間を掛けるかもしれない。
そうしたら、その植物を使いたい人に迷惑が掛かってしまう。
だから、草花一つ一つ大事しなければならない。」
草花について授業しているとき、先生が言った言葉である。
それだけは避けたいと2人は思っていた。
「どーする?」
「ターザンが出来るといいのにな」
「龍魔、ここでボケてるんじゃねーよ」
「じゃあ、ロザスはどうなんだ?」
「うーん…空を飛んで行くぜ!」
「……」
「わ、悪かった!ちゃんと考えるから!」
「いや、それにしよう」
「はぁ!?」
驚いた顔をしてロザスは龍魔の顔を確認した。
龍魔は真面目な顔をしていた。
とうとう龍魔の頭が壊れてしまったのかと、ロザスは心配した。
「空を飛ぶと言ったって、どーやって飛ぶんだよ!」
「俺の聖霊を使えば出来る、レイガ」
守護精の名前を呼ぶと、龍魔の背中に黒い翼が現れた。
黒い翼と言ったら悪いイメージがあるが、龍魔の翼は白い翼に負けないぐらい綺麗な翼だった。
黒い翼を広げて動かすと、龍魔の体は宙に浮いた。
そのまま龍魔は甘福草の上を飛んで行き、中心の木まで辿り着いた。
木の葉は白く、病気にでもなったかのように見えるが、図鑑に載っていた天玉の葉も白かった。
確信を持って実を探すと、白い葉に埋もれるように実が生っていた。
「あった」
龍魔は天玉が付いている枝に触れた。
その実は図鑑と全く同じ形と模様の天玉だった。
図鑑の情報によると、天玉は傷みやすいらしく、人が触れただけで腐ってしまうらしい。
また、木がちゃんと生きていても、実が熟れているように見えても、実が腐っているときがある。
龍魔が見つけた天玉は虹色のビー玉のように綺麗で、艶々としていた。
ウエストポーチから布袋とハサミを取り出して、天玉を採った。
無事に終わってホッとした龍魔は来た方向へと折り返した。
「採れたか?」
「ああ、無事にな」
ロザスの隣に降りると、龍魔の背中の黒い翼が消えた。
それと同時に龍魔の体勢が崩れた。
「龍魔!」
ロザスは慌てて崩れる龍魔の体を支えた。
支えてもらった龍魔は苦笑を浮かべる。
「…悪い」
「ったく、無茶するなよ」
「だけど、ちゃんと獲れたから文句はないだろ?」
龍魔は手にしっかりと握っている布袋を広げて、中身をロザスに見せた。
布袋の中にはガラス玉と見間違えるような玉が入っていた。
「これが天玉か?」
「ああ、これで材料は終わりだ」
「お前って奴は」
ロザスは龍魔の頭を乱暴に撫でた。
その所為で龍魔の頭がボサボサになっていく。
やめろって言いながら、龍魔はくすぐったそうに笑った。
2人は顔を見合せてはハイタッチした。
back/next
[戻る]