「龍魔〜どうすんだよ。桜の誕生日!」
桜が持ってきたクッキーの残りに手を出したロザスはキッチンから戻ってきた龍魔に言った。
ロザスがクッキーに手を出したのを見た龍魔もクッキーに手を伸ばして食べた。
龍魔が取ったクッキーは紅茶だったらしく、紅茶の味が龍魔の口いっぱいに広がった。
クッキーを食べながら龍魔はふと思った。
目の前ではロザスがクッキーを頬張りながらさっきから同じ質問を龍魔に問いかける。
だが、龍魔は反応せず、じっと食べかけのクッキーを見つめていた。
「どうかしたか?」
「…お菓子」
「はぁ?」
「俺達の手作りお菓子はどうだ?」
「オレ達の手作りお菓子を桜にあげんのか?」
「ああ」
突然の提案にロザスはきょとんとしていたが、すぐにニヤっと笑った。
ロザスが笑うと、龍魔も同じように笑った。「とは言ったものの、どんなお菓子を作るんだよ」
2人は秘密基地を出て、近くの街へ行った。
この街に行けばほとんどの物が揃うから、ロザスと龍魔にとってはお気に入りの街だった。
この街にはお菓子といったらいろいろある。
駄菓子、洋菓子、和菓子と、それぞれ専門の店がある。
しかも、お菓子作りが好きな人用にお菓子作りに欠かせない材料が全て揃っている店もある。
「見本を見るか、材料で決めるか…どうする?」
「オレ的には洋菓子屋に行っても作り方がわからずに終わると思うぜ」
「じゃあ、材料集めに行こ」
「りょ〜かい」
2人はお菓子の材料がたくさん売られている、“カシの実”という店へ向かった。
カシの実には、ロザスと龍魔が知り合いの女の子から場所を聞いて、桜と共に来たことがあった。
その日はカップケーキを作るということで、生地となる小麦粉やトッピングに使うチョコを買ったりした。
店を訪れた桜は、カシの実は色々揃っていて、「材料もいい物だからいい店だね」と言いながら喜んでいた。
ロザスと龍魔にはそういうことはよくわからないが、桜が喜んでくれるだけで充分だった。
カシの実は街に入ってすぐの場所に建っていた。
店には相変わらず2、3人の客がいて、店内には2人の店員がいた。
これが、クリスマスやバレンタインシーズンになると店は人で溢れてしまうほど人が来る。
シーズン以外に来る人達は趣味や友達とかの誕生日や趣味などのために店を訪れる客がいるそうだ。
週末になると仕事が休みである人が多いため、店に訪れる人が平日よりも増える。
ロザスと龍魔が店内に入ると、店にいる店員が「いらっしゃいませ」と挨拶した。
「さて、どうする?」
「俺達は初心者だからあそこの初心者用のコーナーに行ってみよう」
カシの実には便利なことに初めてお菓子作りをする人のための初心者用コーナーが設けられている。
難易度も書いてあるので、どれから始めればいいのか分かりやすくなっている。
このコーナーを利用する人なんて少ないと思われるが、お手軽に出来るということで忙しい人達から人気があった。
初心者では、ゼリー、クッキー、アイスなどの専用のキットと初心者専用の本を買って行く人が多い。
本当に初心者な人はキットを買った方がいいと、キットの傍に書かれていた。
ご親切な店だと2人は揃って思った。
「これを読んでみよ」
2人は目の前に置かれていた初心者用の料理本を手に取って、読み始めた。
本には作業の写真やポイントなどが書かれていて、何もわからない人も簡単に理解出来そうだった。
これならなんとかなる。
2人は揃って思った。
目次にはクッキーやカップケーキなど、定番と言えそうなお菓子の名前が挙げられていた。
「桜はどんなお菓子が好きなんだ?」
「そう言えば、聞いたことないな。お菓子ならなんでも好きだとは言っていたが」
「…どーするんだよ」
「桜ならきっとどんなお菓子でも喜んでくれる」
「なんでわかんだよ」
「桜の性格から見てそう考えられるからだ」
龍魔の顔は自信ありって伝えていた。
さすが龍魔、観察力の凄いやつだ、とロザスはつい関心してしまった。
「ロザスは桜にどれあげたい?」
龍魔が問いかけた。
「オレはオレが好きなケーキがいいな」
「ケーキなら…ショートケーキかチーズケーキが載っているけどどっちにする?」
「もちろん、ショートケーキだぜ!」
「決定だね。この本に材料が載っているから、店内で集めよう」
2人は料理本に書いてある材料を手分けして、集めてはカゴに入れていった。
一通り集めた後、2人はレシピとカゴの中身が一致しているか確認した。
確認が済んだら、最後に料理本をカゴの中に入れて2人はレジに向かった。
レジで何かを書いている女性の店員は2人を見て微笑んだ。
よく大人が子供に向ける微笑みだった。
女性の店員は微笑むとくっきりと笑窪が出来ていた。
「いらっしゃい。坊っちゃん達、お使いなの?」
「違うよ!オレ達が使うんだ!」
胸を張ってロザスが答えた。
ロザスの答えに女性店員は関心の眼差しを送った。
「まぁ、2人でお菓子作りかい?凄いねぇ。誰かにあげるのかい?」
「オレ達の大切な友達に」
「そうかい、そうかい。ショートケーキを作るみたいだけど、女の子にあげるならオススメがあるよ」
「オススメ?」
ロザスと龍魔は同時に首を傾げると、女性店員はウインクして答えた。
「この店の秘密のお菓子だよ。でも、作るのに材料を調達するのが大変なんだけどね」
「…どーする?龍魔」
「…ロザス、珍しい物を見せたいと、俺達考えたよな」
2人は顔を見合せて、ニヤッと笑った。
「オバサン!オレ達にそのオススメを教えてよ!」
「やる気があるわね。でも、ダメよ?」
「どうして?お姉さん、僕達にイジワルするの?」
目を少々潤ませながら、龍魔は女性店員に尋ねた。
龍魔がやると、一緒になってロザスもやった。
効果があったらしく、女性店員は慌てて付け口をした。
「そうじゃないわ。材料のある場所が子供には危険な場所なのよ」
「どこなの?」
「枯ノ森よ」
女性店員はああ恐ろしいと言いながら、首を横に振った。
「かの…もり…?」
どこかで聞いたことがある名前にロザスは首を傾げた。
危険な場所は授業で何度も聞かされているロザスだが、その名前は一度も聞いたことがなかった。
「街外れにある森じゃない?」
「ああ!あそこか!なら大丈夫だな」
「何を言ってるの!キミ達、あそこは危険なのよ。大人が行っても怪我をして帰ってくるのだから!」
「それはその人達が弱いからだよ」
「何を言っているの!ここらでもベテランの人が行っても怪我をしたのよ!?」
「それは嘘だよ」
龍魔が否定すると、店員は止まって目を丸くして龍魔を見た。
その反応を見て、龍魔とロザスは再びニヤッと笑った。
「俺達が知ってる“ベテラン”は一人も怪我なんてしていないよ」
「えっ?」
「お姉さん、その材料はなんて言うの?」
「あ、甘福草の茎と天玉よ」
「わかった!ちゃんと持ってくるからちゃんと教えてね!」
そう言い残してロザスと龍魔は走ってカシの実を出て行った。
残された店員は呆気に取られて、奥から出てきた他の店員に話し掛けられるまで固まっていた。
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