世界一の実












「おいおい、何してるんだ?」





工場の外から新しい声が、工場中に轟いた。


まるで、声が弾のように勢いよく放たれ、奥にいる詩緒のまでも鼓膜を大きく揺らした。


男子生徒達は動きを止め、機嫌が悪そうな顔をして工場の入口に注目した。


詩緒も倣って、入口に立つその人物に注目する。


声を発した人物は見知らぬ制服を着て、無表情で腕を組み、堂々と立っていた。


その人物を見た男子生徒の何人かは、怖気づいたのか、数歩後ろに下がっている人が何人かいた。





「お、お前は!」


「…こ…う…」







掠れた弱々しい声で傷付いている藤宮がその人の名前を呟いた。


詩緒にとっては、初めて聞く名前だった。


男子生徒達はコウという人物を認めると、藤宮から離れたり、腰を後ろに引いたりして、今にも逃げだしそうだった。


傷付いている藤宮を見つけた、コウと言う人は眉間に皺を寄せた。







「おいてめーら、オレの親友に何してんだよ」


「う、うるさい!そ、そこから動くなよ!藤宮がどうなっていいのか!?」


「もうどうにでもなっているだろーが。カスが。てめーら全員、無事で帰るとは思うなよ?」







コウが鷹のような鋭い目をすると、男子生徒全員の体が震えた。


詩緒にはわからないが、コウという人は男子生徒達が恐れる程、怖い人らしい。







「あ、相手は一人だ!全員でかかればどうってことねー!」







男子生徒達は一斉にコウに襲い掛かった。


無表情のコウの顔が一瞬だけ、ニヤッと笑ったのが詩緒にはわかった。


襲い掛かってくる男子生徒達に向かってコウは体を動かす。


コウが動くと同時にコウの背後からもう一人現れた。






「残念でした」


「普通一人でこんなところ来ると思うの?」







2人は襲い掛かって来る男子生徒達を返り討ちにした。


コウの後ろから出てきた、新たなる助っ人を見た詩緒は驚いた。






「海菜!」


「詩緒。だから言ったでしょ。藤宮と一緒にいたらロクなことはないって」







捕らわれた詩緒を見た海菜は頭を抱えながら、溜息を吐いた。


海菜の存在に男子生徒達はうろたえていた。






「何している!相手は女だ!女の方から攻めろ!」


「女の子だからって甘く見られちゃ困るよ。これでも、道場の娘なんだから」






海菜は次々と襲い掛かってくる、男子生徒達を次々と倒していく。


晃が海菜の背後に立って楽しそうに笑っていた。







「やるな。海菜」


「当たり前」


「ちっ。おい来い!」


「いたっ!」









一人の男子生徒が詩緒の腕を引っ張って、無理矢理立たせた。


携帯ナイフを取り出し、詩緒の喉に刃を向ける。


晃と海菜の動きが止まる。







「詩緒!」


「こいつがどうなってもいいのかっ!?」








男子生徒が言い終わると同時に、男子生徒は前屈みに倒れた。


何が起こったのかわからない詩緒は力の抜けた男子生徒の腕を振り払い、離れた。


倒れた男子生徒の傍には、傷付いた藤宮が立っていた。








「俺がいること、忘れるなよ」


「藤宮くん!」







こんなときでも、詩緒の頬は自然と赤く染まった。


藤宮は詩緒の腕に結ばれた縄を解いた。


傷だらけだというのに助けてくれた藤宮が、詩緒には輝いて見えた。






「大丈夫か?」


「うん!」


「ちょっと待ってろ。すぐに俺らで片付けるから」







そう言って、藤宮は海菜、晃と一緒に、残りの男子生徒達を片づけ始めた。


傷だらけにも関わらず、藤宮は強く、男子生徒達が次々と倒れていく。


喧嘩が嫌いな詩緒だが、このときの藤宮に見惚れていた。


少し経つと、そこには藤宮、海菜、晃以外の人は立っていなかった。






「終わりか?」


「ああ」


「全く、藤宮。ちゃんと詩緒を守れって言ったでしょ?」


「悪い」


「あたしじゃなくて、詩緒に謝りなさい」


「いいの!海菜。あたしが藤宮くんに付きまとったのが悪いんだから」






横に大きくてを振りながら、詩緒は否定する。


詩緒の返事に晃は感心した様子だった。





「…亜厂って、スゲーな。小椋の親友やっているだけあって」


「どういう意味よ。それ」







海菜は鋭い目つきで晃を睨む。


反省した顔もなく、晃は両手を上げて降参のポーズを取った。






「なんでもありませーん。それより、ここを離れよーぜ。他の奴等が来たらめんどーだし」

「あたしの家、近いからそこに行こ」




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