世界一の実
















それから数週間後、放課後に用事がなく、詩緒は藤宮と一緒に帰ることを決意した。



放課後は、いつも用事があり、今まで藤宮と一緒に帰ったことはなかった。



今日は用事がないから、詩緒はさっさと教室から出て行く藤宮の後を追っては話し掛けた。



学校から少し離れたところまで来ると、朝のように相槌を打つようになった。



きっと学校で仲良くしているところを他の人に見られるのが恥ずかしいのだろう。



それが可愛らしくて、でも嬉しくって、詩緒の笑顔が増して輝く。



朝にいつも会うところまで来ると、藤宮と詩緒は別れて、それぞれの家への道を歩く。



藤宮と別れた後でも詩緒は鼻歌を歌いながら、軽くスキップをして自分の家へと帰路を歩む。




―明日はどんなことを藤宮くんに話そうか。





何度も何度も浮かび続ける、楽しい楽しい悩み。




―藤宮くんはどんな話をすれば、自分の話にもっと興味を持ってくれるのだろうか。




詩緒の頭はクエスチョンマークでいっぱいになっていた。


まだまだ藤宮のことについて知らない詩緒は、頭の中で一生懸命考えた。


考えれば、考える分だけ楽しくて、顔が自然とニヤけてしまう。





―早く明日になって、藤宮くんに会いたい。





しかし、明日にならなくても、詩緒は藤宮に会うことになってしまった。




「なぁ、きみ、藤宮と仲が良いそうじゃねーか」




前から北洋の制服を着た見覚えのある男子生徒が来たのだ。


詩緒は男子生徒と目を合わせないように少し小走りしながら、通り過ぎようとした。


だが、男子生徒はあのときみたいに詩緒の腕を掴んだ。


今なら一人だけならなんとかなると詩緒は勝手に思い込み、男子生徒を睨んだ。


「離して下さい。私、急いでいるので失礼します」


「おっと、そうはいかないぜ。オレ達はあんたにようがあるんだからな」


道の角から男子生徒と同じ制服を着た人達が出てきた。


さすがにこれはまずいと思い、詩緒は男子生徒の足を思いっきり踏んだ。


足を思いっきり踏まれた男子生徒は、大声で叫びながら詩緒を掴む手の力を緩めた。


詩緒は、男子生徒の手を振り切り、鞄を抱えて家へと全速力で走る。


だが、走る速さは男子の方が圧倒的に速く、詩緒は他の男子生徒に取り押さえられた。


 

「離して下さ…い…!」


 

叫ぶ詩緒の口に白い布が押し当てられた。


押し当てられた瞬間、だんだん意識が朦朧としてきた。


よく刑事ドラマで出てくる、睡眠薬というものを嗅がされたらしい。


そんなものが簡単に手に入るのか、と突っ込みながら詩緒の意識はだんだん薄れていく。




―藤宮くん…。




意識が途切れる前に聞こえたのは、男子生徒の笑い声だった。















一方、詩緒と離れた藤宮淳史は何事もなく、家に着いては自室に籠っていた。


帰ってから、淳史はずっと天井と睨めっこしていた。


天井に何かおかしなものがついているわけではなく、ただ睨めっこしていた。


すると、机の上に置かれた携帯が鳴りだした。


少し驚いた顔をしながら、淳史は体を起こして、携帯を開いた。


淳史の親友、和瀬田晃(わせだこう)からの着信だった。


学校は異なるが、中学からの無二の親友で、よく連絡を取っていた。


 

「もしもし?」


「藤宮!詩緒知らない!?」


 

電話の相手は親友の晃ではなく、小椋海菜だった。


なんで、晃ではなく、亜厂と仲が良い小椋から電話が来たのか。


真っ先に浮かんだ事は口にせず、淳史は正直に質問に答えた。


 

「知らない」


「じゃあ、あれは…」


「かもしれねーな」


 

電話の向こう側で晃の声が聞こえた。


小椋のすぐ隣かに晃がいるらしい。            


幼馴染の晃と小椋が一緒にいることは、淳史も納得する。


だが、小椋がわざわざ晃の携帯を使って淳史に電話した理由には心当たりがなかった。


もし、亜厂とのことで何かあるなら、小椋なら直接、淳史に言う。


 

「どうした?」


「詩緒が誘拐されたみたいなの」


「亜厂が?何で?」


「多分、北洋の奴らだ」


「ナンパか?」


 


北洋と聞いた瞬間、淳史はすぐに思いついた単語を言い放つ。


だが、電話の向こうの反応は違った。


「いや、多分。淳史の弱みを握るためじゃねーのか?」


「なんで亜厂が?」


「最近、お前、詩緒ちゃんと一緒に登校してんだって?その情報が北洋の方に行って、詩緒ちゃんをお前の彼女と勘違いしたんじゃねーのか?」



「マジかよ」


信じたくはないが、可能性はある話だった。


淳史は北洋の一部から恨まれている。


いつか淳史を倒したいと彼らが考えていることだって、淳史は知っていた。


しかし、そのことで関係のない亜厂が巻き込まれなければならないなんて。


淳史は拳を壁にぶつけた。


 

「…奴らの居場所は?」


「多分、丘にある廃棄工場」


「わかった」


 

そのまま携帯を切って、淳史は部屋を飛び出した。

 





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