世界一の実















胸の鼓動の高鳴りはずっと続いたままだった。


自分の家に帰った後、詩緒はすぐに部屋に飛び込んだ。


ポケットから携帯を取り出して、電話帳を引っ張り出して、電話を掛けた。


相手が出るのを待っている間、胸の鼓動は煩くてたまらなかった。






「もしもし?」






詩緒が電話した相手、海菜の声が聞こえた。






「海菜!聞いて!あたし恋をしちゃった!!」


「……はい?」






突然の電話の内容に海菜は意味が解らず聞き返した。


詩緒は興奮しながらも、今日あった出来事を詳しく説明した。


知らない人に絡まれたことを言った瞬間、海菜に怒られたが、詩緒は気にせず話を続ける。


藤宮に助けられたことを話と、電話の向こうで海菜が驚いていた。


海菜もまさか、あの藤宮が詩緒を助けるなんて思っていなかった。






「…あの藤宮がねぇ…」


「とってもかっこよかったんだよ!」


「やめときなさい」






鋭い声だった。


いつも一緒にいる詩緒だが、こんな海菜は初めてだった。


海菜の声に詩緒の興奮が少し冷めた。





「えっ…?どうして?」


「あんなのと関わったら大変なことになるよ」


「大丈夫だよ!」


「詩緒は知らないからそう言えるんだよ。藤宮は一番ヤバいの。関わったら命がいくつあっても足りないよ」






今までも否定されたことがあるが、こんなに冷たく、キツく否定されたことはなかった。


詩緒の目に薄っすらと涙が滲んだ。






「で、でも…!」


「悪いことは言わないからあいつだけはやめときなさい」


「……」


「わかった?詩緒…」


「…ごめん、海菜。あたし、今回は海菜の言うこと聞けない」


「詩緒!?」


「おやすみ、海菜」




そう言って、詩緒は電話を切った。


すぐに海菜から電話があったが、無視して電源を切った。


詩緒は携帯を机の上に置き、ベットの上で横になった。




―海菜の言うことは合っているかもしれない。




詩緒も藤宮の噂は聞いたことがあった。


万引きはもちろん、近隣の不良とつるんでいるとか、夜に不良同士で殴り合いの喧嘩をしているとか、警察に目をつけられているとかたくさんある。


だけど、あれは単なる噂にしかすぎないと詩緒は考えていた。


誰に対しても冷酷だと言われていた藤宮は詩緒を助けたことが、噂が噂ですぎないと証明している。





『…大丈夫か?』


『えっ?』


『どこか痛いところとかあるか?』


『う、うん。大丈夫。ありがとう』



『これからは気をつけろよ』




詩緒はあの短い会話ときの藤宮の声から優しさを感じた。


もし、藤宮くんが冷酷だとしたら、あたしを助けたとしても心配したりはしない。


もし、藤宮くんが冷酷だとしたら、あんな優しい声なんて出ない。


彼は本当は優しくていい人なんだ。


だけど、普段はあまり表に出さない。


違う。


出さないじゃない、出すべき相手がいないだけである。


普段学校で藤宮くんはほとんど一人でいた。


だから、ただのクラスメートが話し掛けても、無視をするかのような態度をとる。


きっと、人とあまり関わりたくない人なのだろう。


本当に人は見かけによらずだと詩緒は改めて実感した。




―みんな、あのときの藤宮くんを見ればきっと勘違いに気付いてくれる。


―海菜だって、本当の藤宮くんを知ればきっと納得してくれる。




詩緒はそう信じて目を閉じた。




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