知らない世界
昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴って数分経つと担当の先生が入ってきて午後の授業が始まった。休み中に屋上へと行っていた一護達はというと先生が教室に入ってくる前に教室へ入っていき席について午後の授業の準備をした。
礼をした後、先生が午後の授業内容を話し始めたが午前の授業と同じようにルキアのことを考えている一護の耳にまったく入らなかった。
教科書の内容を読んでいる先生の話をまったく聞かないで一護は隣の空白となっている席をまた見た。
何度見ても誰も座っていない隣の席だと分かっていても一護は気になってしょうがなかった。
―今、あいつは何をしているんだろうか・・・チャッピーと・・・うまくやっていけているんだろうか・・・。
午後の授業中、全て先生の話を聞かずに過ごしているといつの間にかHRが終わっており放課後となっていた。
先生の話をまったく聞いていなかった一護は一瞬焦ったが別にいいか・・・と思い早くルキアんとこ行こうと思い、鞄に教科書やノートを入れた。
鞄のチャックを閉めると啓吾達が席の周りに集まってきて授業中などで元気のない一護に元気になってもらおうとゲーセンに誘ってきた。
だが、ルキアがいる浦原商店へと行きたい一護は用事があると啓吾達の誘いを断り鞄を手にとって冬獅朗達が集まっているところに行った。
「行くぞ」
一護が来ると鞄を持っていく準備が出来ていた冬獅朗達は今来た一護と一緒に教室を後にした。浦原商店の道のりの間、乱菊と冬獅朗はルキアのことについて、ルキアを襲った虚についてなどを話しながら歩いていた。
恋次と一護は乱菊と冬獅朗に訊かれたことを答えるだけでそれ以外は黙っていてルキアのことを考えながら歩いていた。
そんな感じで道を歩き続けていると一護達は今、ルキアとチャッピーがいる浦原商店に着いた。
浦原商店の前ではいつも店の前の掃除をしているジン太と雨が立っていて一護達に気付くとルキアさんは奥の部屋にいますと言った。
一護達は浦原商店の中へ入ると店のところにテッサイが立っておりルキアがいる奥の部屋へと案内してくれた。
奥の部屋に入るとそこにはルキアと制服姿のルキアの体に入っているチャッピーが楽しそうな顔をしながら座っていた。
一護達に気付いたルキアとチャッピーは顔を上げて小さな一輪の花が咲いた花のように嬉しそうな顔をしながら笑っていた。
ルキアもチャッピーと同じように一護達を見ると嬉しそうな表情をした。
「記憶の方はどうだ?」
遠くでは話しにくいから一護達はルキアの傍まで歩き腰を下ろすと一護がルキアに訊いた。ルキアはしゅんとしながら顔を下に向け、暗い表情をして首を横に振った。
「そうか・・・まぁ、そんなに早く取り戻すわけねぇな」
昨日の今日で記憶が、もし、思い出したのならすぐに思い出すだろうとほっとしたがやはり記憶喪失というのはすぐに思い出せるものではなかった。暗い表情になったルキアを安心させようと一護が笑うとルキアは顔を上げて少し苦笑ぎみだったが一護につられて笑顔になった。
反対側にいるチャッピーはルキアが笑ったのに気付くと安心した顔をしていた。
一護の傍にいる恋次達は暖か瞳で笑顔になったルキアを見守っている感じで見ていた。
「朽木さん、体の具合はどうスか?」
和やかになった感じの部屋に浦原が入ってきた。浦原の声で気付いた一護達が後ろを振り向くと軽く頭を下げると浦原も軽く頭を下げて腰を下ろした。浦原が部屋に入ってくる前は笑顔だったルキアだが浦原が部屋に入ってきた後からずっと少し不機嫌そうな表情をしながら浦原を見上げた。
「どうした?」
少し不機嫌そうな表情をしていることに気付いた恋次は不思議そうにルキアに訊くと、ルキアはなんでもない、と言うだけで表情は変わらなかった。何があったんだ?恋次達は不思議そうにルキアを見ていた。ルキアの様子を見て浦原は理由を知っているのか1人だけ笑っていた。
「昨日からスよ、朽木さんはアタシに会うと何故かあんな風になるのです」
「そうなのか?」
一護達がルキアの方を向くとルキアは表情を変えないまま浦原を見ながら頷いた。もしかすると、記憶を失っても浦原に対する態度だけは脳がかすかに覚えていたのかもしれない。自分のことなどをまだ思い出していないのにどうして浦原のことは思い出したんだ?一護と恋次は同じようなことを考えながら不満そうな顔をしてルキアを見た。
「でも、黒崎さん達が来た時は違うんス」
笑っていた浦原が笑うのを止めて穏やかな感じの顔をしながら帽子の上に手を乗せていた。浦原の発言にルキアとチャッピー以外の人達は顔には表れていないが心の中で驚き、一瞬、時が止まったのかのように止まっていた。
「俺達が…?」
どういうことだ?というような顔をしながら恋次達は浦原を見ていた。チャッピーはわかっているのかルキアの後ろから嬉しそうな顔をしながら皆の様子を見守っていた。
「そうっス、黒崎さん達に会った時だけ朽木さんの表情が明るくなるんス」
「そうなのか?」
一護がルキアに訊くとルキアは下を向いていたが顔が少しだけ赤くなっていたような気がした。すると、表の方からパタパタと廊下を走ってくる音が聞こえてきた。足音から言って多分、子供が走っているのだろう。
「喜助さん…!ちょっと来て下さい…!」
廊下へと戸からひょこっと雨が恥ずかしそうな顔を出しながらおどおどとした声で言った。
「はいはーい!では皆さん、アタシはこれで失礼ます」
明るい顔をしながら浦原は立ち上がり早く…!来てください…!と言いながら雨は浦原の服の裾をひっぱって店の方へと浦原を連れて行った。浦原が部屋を出て行き、ルキアの方に顔を向けると不機嫌そうな顔をしていたルキアは普段と変わらない顔にいつの間にか戻っていた。
やはり、先ほどの不機嫌そうな顔は浦原の所為だったのだ。
「一護、学校というところはどんなことをやっておるのだ?」
一護の方に不思議そうな顔を向けたルキアはふと思ったことを一護に訊いた。
「ああ…それはな…」
一護はルキアに今日の学校での出来事や友達の様子などを話し始めた。ルキアはおとぎ話を聞く子供のように興味津々で一護の話を聞いていた。途中、恋次や冬獅朗も話の内容に加わっていた。
話し終わると今度は自分と一護の今までの出来事を聞きたいと言い出して一護はルキアに今までのいろいろな出来事を話した。
今までルキアが何をしていたのか一護とルキアがどう出会ったのかなど一護とルキアの出来事を話した。
一護の話を聞いているルキアの態度は先ほどと変わらず興味津々に聞いていて時々、頷いたり笑ったりしていた。
でも、いろいろな出来事を一護から聞いてもルキアの記憶が戻る様子はなかった。
長い間、一護が話をしているとルキアは今何時だろう・・・、とふと思い部屋の壁にかかっている時計の針を見た。
あと40分ぐらいで7時になろうとしていた。
ルキアが時計を見ていると一護もつられて時計の針を見た。
「あ、やっべー…もうこんな時間かよ」
時計の針を見た一護は黒崎家の門限が7時だということを思い出した。7時を過ぎると一護の父である一心が帰ってきた一護に攻撃を仕掛けてきたりして五月蝿いのだった。
「そろそろ帰らないと一護の親父殿が怒ってしまうぞ」
一護が一護のお父さんに怒られている場面を想像しながらルキアはクスクスと笑った。突然のルキアの言葉に一護達はとても驚いた顔をしながらルキアを見ていた。
一護達が驚いた顔をしているとルキアはどうしたのだ?と言いながら首を傾げて不思議そうに見ていた。
「ルキア…お前…記憶が…」
「わからぬ…なんとなく、頭に浮かんだのだ…」
「…もしかすると、脳が記憶を取り戻し始めているのか…?」
冬獅朗の言う通りかもしれない。先程、一護がルキアに話したの内容には黒崎家の門限のことを一切話していなかったからだ。
ルキアの記憶が取り戻し始めたことがあまりにも急なことで少しの間、沈黙が続いた。
「…や、やったじゃねぇか!ルキア!!早いうちに記憶が取り戻せるかもしれねぇぞ!!」
「よかったですね!ルキア様!!」
少し沈黙が流れた後、恋次とチャッピーはとても嬉しそうな顔をしながら大声で叫んだ。
「ああ!早く記憶を取り戻したいものだ!」
2人と同じくらいの声で言いながらルキアは嬉しそうに笑った。これをきっかけにルキアの記憶が戻るかもしれない。
小さな希望が見えてきて恋次達の胸に暖かな光が差し込んできた気がした。
「ところで…一護…帰らなくて…」
ルキアが心配そうな顔をしながら一護の方を向くと思い出したのかあっ!声を上げた。一護はルキアが少しの記憶を取り戻したことの嬉しさに門限のことは頭から吹っ飛んでいた。
「いっけねぇ!忘れてた!!チャッピーも行くぞ!じゃあな、ルキア!」
一護は慌てて立ち上がってルキアにそう言いながらをしながら廊下の方へと急いだ。一護の向かい側に座っているチャッピーも慌てて立ち上がりながらルキアにまた来るです!ルキア様!!と言いながら廊下の方へと急いで向かって行った。
「ああ!気をつけて帰るのだぞ!」
慌てて出て行く2人にニコッと笑いながら見送った。部屋の中から2人の姿を見えなり、廊下からは2人が慌てて行く足音が五月蝿く聞こえてきた。
―何やってんだか…。
ルキア以外の3人は一護とチャッピ―の慌てぶりに思わずため息をついた。
3人がため息をしているとルキアは周りの人に気付かれないように顔を少し赤くしていた。
「あっ!あたしもそろそろ帰るね!」
一護とチャッピ―が帰っていくと乱菊は織姫のことを思い出して立ち上がった。帰りが遅いから少し心配しているかもしれない。
「はい、来ていただき有難う御座いました」
「早く取り戻すといいね」
「はい」
ルキアが言葉を返すと乱菊はニコッと笑いながら廊下を歩いて行った。廊下からは一護とチャッピ―と比べて静かな足音が響いていた。
「…冬獅朗殿と恋次はどうするのですか?」
一護とチャッピ―、乱菊が帰ったから冬獅朗と恋次も帰るのではないかと思ったルキアは不思議そうに訊いた。
「俺は残るぜ、また記憶を取り戻すかもしれねぇし」
「俺も残る」
「…布団はどうするのですか?」
この部屋にはルキアの布団しかしかれてなく、部屋を見渡してみても布団が入っていそうな押入れが1つも見当たらなかった。
「浦原に言えば何とかなるだろ」
浦原に聞けば多分、どうすればいいか答えてくれるだろう。そう思いながら冬獅朗は答えた。
「そうですね…」
そう言うとルキアは小さな子供のように片手で目を擦り少し眠そうな顔をした。先程まではそんな様子がなかったルキアが急に目を擦ったので冬獅朗と恋次は気になった。
「眠いのか?」
「はい…少し…」
苦笑しながらルキアは答えた。記憶が戻っていないというのに知らない冬獅朗達に逢ったり、一日中起きていていたりして疲れがたまったのだろう。
「疲れたんだろうな、早く寝た方がいいぜ」
「はい…そうさせてもらいます…お休みなさい…」
横になってかけ布団を体の上に乗せるとルキアはゆっくりと瞳を閉じた。ルキアからは静かな寝息だけが聞こえてきた。
「お休み…ルキア…」
冬獅朗と恋次は眠りの邪魔をしないように部屋の電気を消して静かに廊下に出ていき静かに戸を閉めた。
「…明日にはもう少し記憶が戻るといいですね」
「ああ…」
短い会話が終わると2人は浦原に逢いに店の方へと足を向けて歩いて行った。
To be continued