忘れてはいけない
扉を開けてしまった彼女を心配するのは彼だけじゃないということ
知らない世界
家に帰った一護は自分の体の中に入っていたコンをぬいぐるみに戻して自分の体へ戻った。
コンと一緒にいたルキアの義骸に入っているチャッピーに事情を話すとチャッピーは暗い表情をして俯きながら頷いていた。
その後、下に下りて夏梨や遊子、一心と一緒に夕食を食べた。
ルキアの義骸に入っているチャッピーはルキアが記憶喪失になったことを悲しみながらもみんなの前ではいつものルキアを演じながら笑っていた。
「一兄、今日のルキ姉…変じゃない?」
夕食後、後片付けをしている遊子とルキアの義骸に入っているチャッピーの後ろ姿を見ながら夏梨が一護に聞いた。
「そうか?いつもとかわらないと思うが…」
「そうかな…」
夏梨は険しい顔をしながら2人の後ろ姿を見ていて一護は夏梨には用心しておこうと、思いながら部屋に向かった。
お風呂入った後、一護はベットの上に座って俯いていた。
―…チャッピーに嫌な思いをさせな…きっとあいつもルキアが記憶喪失と聞いてつれぇんだろうな…。
遊子と夏梨と一緒に寝ているチャッピ―のことを考えると、2人に気付かれないように涙を流して悲しみ、苦しんでいるのだろう。慕っていた相手が自分のことを忘れられたらどれだけ悲しいのか、実際にルキアの口から言われた一護にはわかる。
チャッピーのことを考えているとルキアが血を流して倒れている場面が横切った。
―…俺が…もう少し…早く…気付いて…いれば…!
一護が自分を責めていると、窓を叩く音が聞こえてきた。顔を上げると窓の外には死覇装を着た恋次、冬獅郎、乱菊がいた。
「恋次…冬獅郎…乱菊さん…?」
―何で…ここに…。
不思議に思いながら一護は窓の鍵を開けて窓を開けた。
「どうしたん…っ!」
「てめぇ、何があったか説明しろ!」
窓を開けた瞬間、一番前にいた恋次が一護の洋服を掴み顔を近付けて怒鳴った。
「何…」
急に怒鳴ってきたから一護には何で恋次が怒っているのかとっさに判断出来なかった。
「何でルキアが記憶喪失になっていやがるんだよ!」
恋次がそう言うと一護は目を丸くした。
「止めろ、阿散井」
傍にいた冬獅郎は冷静に一護の服を掴んでいる恋次の腕を掴んだ。
「日番谷隊長…」
「さっき、現世に帰ってきたら浦原という奴に会ってな、朽木が記憶喪失になったって聞いたんだ」
「理由を聞くと一護に聞いてと言われたの…」
「てめぇ、俺らが尸魂界に報告に行っている間、何があったんだよ!」
「……」
恋次に服を掴まれたまま一護は思い詰めた顔をしながら視線を下にした。
「黙ってねぇで答えろ!!」
「止めなさい!恋次!」
今にも一護を殴りそうな恋次を見て傍にいた乱菊が殴ろうとしている方の腕を止めようとした。
「俺が…もっと早く気付いていれば…こんなことには…」
肩が少し震え拳を強く握りながら一護は弱弱しい声で呟いた。
その声を聞いた恋次は一護の服を掴むのを止めて、黙って一護を見ていた。
「一護…話を…してくれねぇか…?」
黙ったまま一護はゆっくり頷き、3人を部屋の中に入れて窓を閉じた。一瞬、夏梨とかが霊圧で起きるんじゃないかと不安になったが、勘の良い夏梨がルキアの異変にもう気付いているのだから聞かれてもいいかもしれないと思い考えないようにした。
3人が座ると、一護はルキアが記憶喪失に至るまでの出来事を話した。
途中で、恋次が憤怒しそうになったが、隣にいる乱菊がすぐに止めたから何とか話を無事に終わらせられた。
「…そういうことだったのか…」
「だが、その虚、普通そうな虚だったんだろ?」
「ああ…形からいって普段見ている虚と変わりはなかった…」
「じゃあ、どうしてルキアちゃんはその虚を倒せなかったのでしょう…」
「朽木の実力なら普通の虚ぐらい簡単に倒せるはずだ…」
ルキアの実力についてはこの間の破面が来た時に分かったから確かにそうだなと、思いながら一護達は頷いた。
「その虚と何かあったのでしょうか?」
「わからない…」
虚と何かあったのかなど考えている4人の間に沈黙が流れた。
「朽木の様子はどうなんだよ…」
沈黙の間でどうすればいいか考えていた冬獅郎はふと思ったことを聞いた。
「ルキアは…今は浦原さんのところで寝ていると思うぜ…」
「そうか…」
「くそっ!」
恋次は悔しそうに自分の手に強く拳を当てその音は部屋中に響いた。
「…今日はこれぐらいにしよう…明日、浦原という奴のところに行って朽木の様子を見ようぜ」
冬獅朗が立ち上がりながら言うと他の3人も冬獅朗につられて立ち上がった。
「ああ…」
「じゃあな、一護」
「元気だしなよ」
部屋の窓から出て行く冬獅朗達を見送りながら一護は黙って頷いた。
冬獅郎達は一護の部屋から出て行きそれぞれの泊まる家の方向へ走って行った。
3人を見送った一護は窓を閉めて部屋の電気を消してベットに横になって天井を見つめていた。
翌日、一護は早起きをして早く家を出て浦原商店へと向かった。
浦原商店の前にはすでに制服姿の冬獅朗達が立っており一護は冬獅朗達と一緒に浦原商店の中に入って行った。部屋へと着くと、足音で気付いたのかルキアが体を起こして一護達の方を向いていた。
雰囲気は記憶を取り戻す前と変わらない。
「記憶は取り戻したか?」
部屋に入りルキアの隣に腰をおろした一護がルキアに尋ねると、ルキアは暗い表情をしながら首を横に振った。
「いや…まだ何1つ思い出せていないのだ…そやつらは誰だ?」
一護の後ろにいる冬獅郎と乱菊と恋次の3人を見たルキアは首を傾げながら不思議そうに一護に尋ねた。
「…ルキア、俺の事…覚えていないのか?」
恋次が聞くとルキアは記憶をたどってみたが覚えがなく首を横に振った。ルキアの様子を見て乱菊はルキアに気付かれないように小さく溜息をついた。
「本当に記憶喪失だね…」
乱菊が確信していると冬獅郎はルキアの布団の傍に腰をおろした。
冬獅朗が腰をおろすとルキアは首を傾げながら不思議そうに見ていた。
「俺の名前は日番谷冬獅郎、お前の上官みたいな存在だな」
「冬獅郎…殿…?」
首を傾げたままルキアが言うと冬獅朗は頷いた。
「そうだ」
冬獅朗が自己紹介したのを見て乱菊と恋次もルキアの傍に腰をおろすと、ルキアは貴様等は?というような顔をして2人を見た。
「あたしは松本乱菊、隊長…日番谷隊長と同じ上官みたいな存在よ」
「乱菊殿…?」
先ほどと同じ反応なルキアに乱菊は冬獅朗がしたように頷いた。
「そう」
「俺は阿散井恋次、お前の家族みたいな存在だ…」
「恋次…?」
「…ルキア…本当に…何も覚えていねぇのか…?」
「ああ…」
「そうか…」
やっぱ…事実なのか…と思いながら恋次は暗い表情で俯いて拳を強く握り締めた。
恋次が俯くと、ルキアは昨日の一護の用に恋次も悲しませてしまったと思い、恋次につられて俯いた。
「すまぬ…」
「気にすることじゃないよ」
「別にお前が悪いとは誰も言っていないぜ」
傍にいた冬獅朗と乱菊がルキアを励ますとルキアは顔を上げて苦笑をしていた。
「はい…」
「じゃあ俺ら、学校へ行ってくるな」
一護が立ち上がると冬獅朗達もつられて立ち上がった。
「ああ…いってらっしゃい、一護、冬獅郎殿、乱菊殿、恋次…」
ニコッと笑顔でルキアが言うと4人はルキアの笑顔に励まされた気がして穏やかに笑った。
「ああ…」
「行ってくる」
一護達が出て行くところをルキアは笑顔のまま見送ると4人と入れ替えに浦原が部屋の中に入ってきた。
「朽木さん、調子はどうスか?」
ルキアの傍に腰をおろした浦原がそう言うとルキアは記憶喪失になる前と変わらない顔で浦原を見た。
「まぁまぁだ、だが記憶はまだ何も思い出せないのだ…」
「そうですか…まぁ、記憶というものは自然に戻るもですよ」
浦原が苦笑しているとそうだといいが…と、暗い表情をしながらルキアは思っていた。