世界一の実
とても美味しい実を食べてみたいと夢見ていた
どんな和菓子や洋菓子よりも甘く
どんな果物より甘酸っぱく
どんなパンより柔らかい
世界でただ一つのおいしい実
一生に一回食べられるかどうかの“恋”という名の実を食べてみたい
一口だけなのにそれだけでお腹いっぱいになりそうな満足感
食べれば食べる程その虜となってしまう
この世のものだと思えないぐらい
おいしさを持った
表現出来ないぐらい程の好い甘さを持った
世界でたった一つの最高の実を食べてみたい
恋の詩がたくさん詰まった本に書いてあった最後の詩を読み終わると、亜厂詩緒は本を閉じた。
詩を読んでいる間、聞こえるのは心臓の音だけで、頭の中は詩の世界が広がっていた。
一つ一つの言葉に頭が敏感に反応して、頭の中の世界がころころと変わっていった。
その所為か、読み終わっても頭の中はまだ詩の世界でいっぱいになっていた。
特に最後に読んだ詩は、詩緒の心を大きく揺さぶったから、詩の内容を何回も繰り返された。
何回も繰り返しながらこの詩で出てきた甘い実がどれくらい甘いのか、どんな“栄養”によって出来るのか。
もし、その実を食べてしまったら、大好物のケーキが出てきても、それを食べずに甘い実に夢中になってしまうのだろうか。
膨らむ疑問を思い浮かべては、詩緒は目を輝かせた。
「はぁ、いいなぁ〜」
「また恋愛小説?よく飽きないね」
詩の余韻に浸っていると、隣から呆れた声が聞こえてきた。
顔を向けるとそこには、詩緒の親友である小椋海菜が頬杖をついて詩緒を見ていた。
余韻に浸っていたところを邪魔された詩緒はムッとした顔になった。
「小説じゃなくて詩だよ!純愛な詩はいいんだよ!」
「はいはい、その話は今週に入ってもう5回も聞きました」
「は〜あたしもこの詩に書いてあるような恋したいな〜海菜〜あたしの運命の人はいつ現れるかな?」
「さぁ?どうだろうね。詩緒の理想高そうだし」
興味なさそうな顔で海菜は冷たく返した。
だが、詩緒は自分の世界に入っているのか、運命の人ってどんな人だろうと、呟きながらまた目を輝かせていた。
海菜は深い溜息をしながら、詩緒を無視して今日出た課題を進める。
「海菜、あたし早く恋したいなぁ〜」
自分の世界から帰ってきた詩緒は輝かせた目を海菜に向けた。
「はいはい。出来るといいですね」
「うん!」
嬉しそうに詩緒は頷き、読んでいた本を鞄の中に入れた。
ご機嫌な詩緒を見ている海菜は眉に皺を寄せた。
「詩緒、一つ忠告しておくよ」
「何?」
「恋愛に夢見すぎて厄介なことに巻き込まれないようにしてね。あんた鈍感なんだから不安よ」
「大丈夫だよ!海菜!あたしはそこまでバカじゃないもん!」
詩緒は胸を張って言った。
不安を感じながら海菜はだったらいいけどと、言いながらお気楽な詩緒に呆れていた。
海菜の予想が的中するとは、今のこの2人は思ってもいないことだった。
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