双天使


 

 

 

 

 

 


真っ白な部屋、真っ白なカーテン、真っ白なシーツを被った柔らかい白いベット・・・。
白一色で染められたこの家に、10代ぐらいの男女2人の天使が住んでいた。
この辺りは人間がこないから、天使である2人にとってはとても住みやすいところだった。
人の気配がしない間、2人とも普段から翼を出していて少女の方はたまに空を飛んだりするが、少年の方は空をまったく飛ばなかった。
少年は空を飛ぶことが怖いらしく、少女が何回も誘っても少年は飛ぼうとしなかった。
天使の少年の方は瞳を閉じてベットの上で赤ん坊のように気持ち良さそうに、すやすやと眠っていた。
少年は夜空のような紺色の髪をして、白い長袖の服に白いズボンを履いていた。
少女の方はというと、膝立ちをしながら少年が寝ているベットに腕を乗せて、少年の寝顔を母親のように穏やかな表情で見つめていた。
少女は木の幹のように茶色い髪に、髪と同じ色の大きく綺麗な瞳をして白いワンピースを着ていた。
寝顔を見つめていると、少年の瞼がゆっくりと開いて紺色の瞳が輝きを放った。
少年の紺色の瞳を見ると少女は嬉しそうに微笑んだ。
その笑顔はもう、天使と呼ばれる者に相応しいぐらい綺麗な笑顔だった。

「起きた・・・?」

静かな水のように落ち着きのある声を少女が唱えると、少年は寝起きの所為か少し眠そうな顔をしながら頷いた。
少し眠そうな少年の顔を見て、少女は口に手をかざしながら面白そうに笑った。
こういう時、ムッとする人が多いかもしれないが少年は少女の楽しそうな顔を起きてすぐに見れたことに喜びを感じた。

「じゃあ、行こう・・・?」

少女は立ち上がってまだ頭が起きていない少年に向かって手を差し伸べた。
急に立ち上がった少女を見上げながら少年は少し眠たい顔をしながら首を傾げた。

「この澄み切った空に行こう・・・!」

さっきより大きな声で少女が言うと、少年は暗い顔をして脅えるように気持ちだけ後ろに下がった。
少年の反応を見て少女の顔はだんだん、悲しみの色になっていった。
いつもならここで少女が諦めてこの内容の会話が終わるのだが、今日は違った。

「行こうよ・・・!私は前みたいに、空を飛びながら笑っている貴方の顔が見たいの・・・!空は私達にとって家と思えるところ・・・!だから・・・空の家に飛んで笑って・・・!!」

少女は涙という名の暖かな雫を瞳から額を通り、少年が乗っているベットのシーツへとポタポタと雨のように流していた。
この家に一緒に住んでいる間、少女が泣いたところなんて見たことがなかった少年はとても驚き不思議に思った。

何で泣いているんだ?
俺が空を飛ぶことを拒否るだけで何で彼女は泣いているんだ?

何故、目の前にいる少女が泣いているのか少年には理解が出来なかった。
少女と出会ったのは2週間ほど前だった。
いや、もしかすると、その前から会っていたのかもしれない。
実は少年にはここへ来る前の記憶が跡形もなく綺麗サッパリなかったのだった。
だから、少女と出会った時、少年は彼女を傷つけてしまった。
彼女はここへ来る前から少年との関わりがあったらしく、目覚めた時、少年の名前らしき名前を言いながら話し掛けてきたのだった。
けれど、少年の名前を呼んでも少年は全く反応がないのを見て、少女は少年の名前を呼ぶのをやめ、さっき言っていた質問と違う質問をしてきた。
その時、先程まで明るかった彼女が、スポットライトが消えたステージのように一瞬にして暗くなった。
彼女は笑っているつもりかもしれなかったが、少年には笑っているようには見えなかった。
その後、彼女から昔の少年についていろいろと聞いて、少しだけ昔のことを思い出したがまだ、完全には思い出せなかった。
話した後、一緒に空を飛ぼう、と少女に誘われて少年は少女と一緒に外へ出た。
少年の前で少女がお手本として飛んでみて、少年がいざ飛ぼうとすると嫌な感覚が少年の体を襲った。
頭では飛んではいけない、飛んだら危険だ、とサイレンのように響きわたっていた。
飛ぼうとしない少年に少女は不思議に思い、少年の前に降りてきて、不思議そうな顔をしながら一緒に飛ぼう、と少年を誘った。
が、少年は差し伸べられた彼女の手を振り払ってしまった。
その行動に彼女はとても驚き、振り払われた手を大事そうに片方の手で握りながら少し後ろに下がった。
反射的にやってしまった少年は振り払ったことを後悔しながら暗い表情を浮かべた。
あの時、彼女は悲しい顔をしたが、涙を流す事はなく、少年に謝り家の中に入ろう、と言って少年と家の中へ戻ったのだった。
あれ以来、少年は感情を顔に出す事はなく、無表情になり続けていた。
だが、少年がずっと無表情でも少女は笑顔で笑いながら話し掛けたり、散歩に行こうと誘ってくれた。
少年は短く返事を返したり頷いたりするだけで、口数が少なかった。
しかし、彼女は諦めないで毎日毎日、話し掛けたり誘ったりしてくれた。
そうしていくうちに、ここへ来る前の記憶や彼女との記憶などが少しずつ戻ってきた。
今までの少女との出来事と今までに思い出した昔の記憶を一緒に見ていくと少年はふと思った。

・・・もしかすると、全部俺が前みたいに笑ったりする為にしてくれたのか?

そう考えると、今まで彼女がどうして必死になって話し掛けたりしてくれた理由がわかった気がした。
目覚めた時からずっと少年を暖かい太陽のように見守ってくれた彼女。
どんなに少年が無表情でも天使のような笑顔で見つめてくれた。
だが、実際に少年と少女は天使なんだから他の例えじゃないとおかしい。
でも、彼女だからこそ、例えられる1つの言葉がある。
それは、女神という言葉。
少女は少年にとってのただ1人の女神なんだ。

女神が・・・今・・・俺の為に泣いている・・・。

少年は俯いてベットの端に座ると女神の前に立ち上がった。
女神は涙を流しながら驚いた顔をして自分より背の高い少年を見上げた。
すると、少年は女神がいつもするように女神に向かって手を差し伸べた。

「行こうぜ、この綺麗な空に!俺はもう恐れたりしない。だから、行こうぜ!!」

意外な発言に女神は一瞬、唇を噛み締め、少年に飛び込んだ。
その反動で少年はベットに座ると少女は少年の胸の中で今まで我慢していた大粒の涙を流した。
少女が少年の胸の中で泣いていると、少年は彼女を抱き締めて彼女につられて涙を流した。

「・・・おかえり・・・なさい・・・」

泣いている所為か少女の声は聞こえるか聞こえないかの大きさだった。
でも、少年の耳には彼女の声が確かに聞こえた。

「・・・ただいま・・・」

抱き締めている彼女の耳元で少年は呟き、腕に少し力を込めた。
流し続けている涙が止まると、少年と少女は手をつないで背中に生えている翼を広げて大空へと飛びたった。
澄み切った海のように綺麗な空で、2人の天使が楽しそうに飛んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

end

 

 

 

 

 

 

 

 

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