若緑の葉が多い茂っている木の下に、銀髪の少年が木の幹に寄り掛かって空を見上げていた。
空は白く薄いレースが点々と浮かんでいる薄い水色の空で、銀髪の少年は眉間に少し皺を寄せながら空を見上げていた。
別にこの空に不満があるから眉間に皺を寄せているわけではない。
元々、そんな顔をしているのだった。
部下にその顔は怒っているように見えますよ、と言われて直そうとは少し思ったが自然とこんな顔になってしまうから直しようがなかった。
銀髪の少年は黙って空を見上げていた。
空に点々と浮かぶ白く薄いレースを見ていると何故か“あいつの顔”が自然と浮かんだ。
多分、薄いレースがあいつのイメージに似てしまうんだろう。
目を離してしまうと消えてしまいそうなあいつと。
弱弱しい風が吹いて、周りにある雑草や可愛らしい花が左右に揺れていた。
その風は少年の髪も左右に揺らしながら、少年の額を優しく撫でていた。
上を見上げると、若緑の葉がこげ茶色の枝についていて葉と葉の間から眩しい日差しが見えた。
日差しが眩しくて少年は目を細めてながら上を見上げた。
目を細めると先程と比べて、もっと眉間に皺がより、ますます怒っているような感じの顔つきになった。
しかし、当の本人である少年はそんなことには気づいていない。
しばらくの間、上を見上げていると“あいつ”の霊圧が感じられた。
“あいつ”の霊圧はどこか少し脅えているような感じだった。
霊圧はだんだん少年がいる方へとゆっくり、向かってきていた。
少年は上を見るのをやめて、“あいつ”の霊圧が感じられる方に顔を向けた。
そこには黒い死覇装を身に纏い、黒く綺麗な髪を風になびかせている“あいつ”の姿があった。

「朽木・・・」

あいつ、朽木ルキアを見つめながら彼女の苗字を呟くと、彼女の肩はびくっと震えた。
彼女の肩が震えたのを見て、俺、あいつに何かしたか?と少年は不満に思いながら彼女を見ていた。

「お、遅れて申し訳ありません、日番谷隊長・・・」

深く頭を下げながら彼女から感じる霊圧と同じぐらいに脅えた声で彼女は謝った。
少年は目を丸くして頭を下げている彼女を見ると、あのう、怒って、いますよね・・・?と、彼女は少し頭を上げて上目遣いな感じで少年を見た。
綺麗で笑顔がとても似合う彼女の顔は大変な仕事を任されてしまった時のような不安の色に染まっていた。
何であいつにこんなことを聞かれているのかわかなかった。
俺は怒っていない。ただ、あいつの苗字を呼んだだけだった。
少年は不思議そうな顔をしながら彼女を見つめながら口を開いた。

「何で、そんなことを訊くんだよ」

彼女の肩がまた脅えているように震えた。頭を上げるかと思ったが彼女は頭を下げたままで頭を上げる様子はなかった。
顔を上げろよ、と少年が言うと彼女はゆっくり顔を上げてくれた。
しかし、視線は下にしていて少年の方へと向けなかった。

「・・・怒っているような・・・気がしまして・・・」
「俺・・・そんなに怖い顔をしていたのか?」

冬獅朗が目を丸くしながら訊くと、ルキアはおそるおそる頷いた。
また、やってしまったか。
部下の言葉が大きな鐘となって嫌というほど、耳の中に響いた。

「・・・で、でも!いつもはそんなに怖い顔をしていませんよ!!」

黙っている冬獅朗がを心配したのか、完全否定するようにルキアは慌ててつけくわえた。
慌てているルキアの様子を見て冬獅朗は突然、噴出して笑い始めた。
突然笑いだした冬獅朗に、理解出来ないルキアは何か変なことを言ってしまったのか、と混乱していた。

「・・・わりぃ、朽木があまりにも面白いことをいうからつい・・・」
「私、何か面白いことを言いましたか?」

笑っている冬獅朗を見下ろしながらルキアは首を傾げながら不思議そうな顔をしていた。
ルキアの顔を見てみると、先程のように脅えの雲は消えていて暖かな太陽に照らされていた。
嬉しそうな顔をしている冬獅朗は座れよ、と言うと、ルキアははい、と返事をしながら冬獅朗の隣に腰を下ろした。
こんな風に寄り添って座るなんてよくあることだが、好きな人が隣にいるだけで幸せに思えるような気がした。

「・・・お前の声を聞いていると、とても安心する・・・」
「私も・・・日番谷殿の声を聞いていると、とても安心します・・・」

何気ないルキアのその一言が冬獅朗にある“想い”を伝える勇気をくれた気がした。
伝える相手から勇気を貰うなんて変だな、と思いつつ、覚悟を決めた冬獅朗は穏やかな表情をしながらルキアの顔を見つめた。
視線に気付いたのかルキアは見つめてくる冬獅朗を見て彼の苗字を呼んだ。

「・・・ルキア・・・・・・好きだ・・・」

照れくさそうな表情をしながら冬獅朗はずっと彼女に伝えたかった言葉を口にした。
突然の告白に最初は何のことなのか把握していなかったルキアだが、その言葉の意味がわかったのか顔はだんだん林檎のように綺麗な赤になっていった。
2人の間に沈黙が始まると告白は大抵こんな感じなのだろうなぁ、と冬獅朗は思った。

「私もですよ・・・日番・・・」
「日番谷じゃなくて」
「・・・冬獅朗・・・殿・・・」
「殿はなし」
「はい・・・冬獅朗・・・」

冬獅朗の名前を初めて口にした林檎の彼女は幸せそうに笑った。
初めて彼女に呼ばれた自分の名前・・・。
名前を呼ばれるだけなのにこんなに嬉しいものとはな・・・。
ルキアにつられて顔を赤くしている冬獅朗はやっと想いを伝えられて、その想いが通じたことに幸福を感じた。

「手ぇ・・・繋いでもいいか・・・?」
「はい・・・」

柔らかい草の上で冬獅朗とルキアは片手の指と指を組んで互いの手をしっかりと握った。
手を握り合うことで想いが通じ合ったということが改めて実感出来た気がした。
それに手を握り合ったことによって、相手の気持ちが伝わってくるような感じだった。
いわゆる、以心伝心という奴だ。
この日が来るのをどれぐらい夢みたことか。
通じ合う日をずっと、待っていた冬獅朗とルキアはお互いの想いが通じあったこの日を一生忘れないだろう。
その後、2人は手を繋いだまま黙って前に広がる自然を見つめていた。
手を繋いでいる間、会話がまったくなかったが手を繋いでいるだけで会話している時のように思えた。


幸福を感じたこの日、2人は心の中で願った。

 


どうか、この幸福が永遠に続きますように・・・。

 

 

 

 

 

end

 

 

 

 

 

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