おやすみ、私の王子様

 




お風呂を出たルキアは濡れている髪を乾いている、柔らかいタオルで拭きながら階段を上っていた。

階段を上がって2階の廊下につくと、ルキアは自分の部屋ではなく、真っ先にクーラーがついている部屋のドアを開けた。

部屋のドアを開けて中に入ろうとしたルキアの動きが止まった。
ルキアより先にお風呂に入ったオレンジ色の髪の少年が、ベットに横になって目を閉じていたのだ。
止まっていたルキアはドアを開けっ放しでは部屋が暑くなってしまう、と思い、ひとまず、ドアを閉めて部屋の中に入った。

ドアを閉めて少しの間、ドアの前で立ち止まっていると、ルキアは少年が寝ているベットの傍まで足を進めた。

ベットの傍へ行くと、ルキアは近くにある机の椅子を引き、ベットの方へ向けて腰を下ろし、寝ている少年を見つめた。

少年は静かな寝息をたてていて、多分、今頃はもう、楽しい夢の中へと旅立って行っただろう。

2ヶ月前のようにハードな毎日ではなくなったのに少年がもう寝ていることに一瞬、ルキアは驚きを感じたが、疲れてもおかしくないことが1つあった。
実は今日、恋次達やクラスの友達と一緒に遊園地へ行ったのだった。

遊園地に行くのは久しぶりだからルキアにとってはとても嬉しかった。

一緒に行った浅野はいつもと変わらずテンションが高く、一緒にいた小島が浅野のテンションに巻き込まれていた。

恋次や日番谷隊長達は遊園地にある物全てが、初め見る物ばかりだからなんであれは回っているんだ、など驚いていた。

有沢や井上などの女子メンバーはルキアといつものように、仲良く話しながらジェットコースターなどを楽しんだ。

一護はというと、ほとんどチャドと一緒にいたが、テンションの高い浅野や遊園地に初めてきた恋次達に振り回されたりしていた。
今日のことを振り返りながらルキアは楽しかったなぁと、思い出し笑いをしていた。
そういえば、いつもならルキアに向かって嬉しそうな顔をしながら、姉さーん、と抱きついて来るコンがいなかった。

きっと、一護の妹である遊子と夏梨の部屋にいるのだろう。

コンをとても気に入っているらしい遊子に、いじられるコンを考えるとルキアはまたクスクスと、笑った。

クーラーから出ている涼しい風が、お風呂上りのルキアの体から熱を奪っていく。

体が冷えていくと、冷静になったのか、今日の遊園地であった一護との出来事を思い出した。
トイレに行ってくると言って一護達から別れて1人で行った後、トイレに出たら自分が何処から来たのかルキアはわからなくなってしまったのだった。
いわゆる、迷子だ。
こんなところで迷子になるなんて、ルキアは思ってもいなかったからとても戸惑った。

何処に行けば一護達に会えるのか、しばらくの間、不安に思っていると遠くから一護が走って迎えにきてくれた。

ルキアの傍に来た時、一護の息が荒かったからいろいろなところを探したらしい。

疲れたのか呼吸を整えた後、一護はすぐさまルキアを叱った。

一護に心配をまたかけてしまった、と思いながらルキアがすまぬ、と謝ると心配かけるんじゃねぇよ、と一護は呟いた。

その一護の一言を聞いたルキアは光に満ちた表情になり、思わず一護に抱きついてしまった。

急にルキアに抱きつかれた一護は顔を少し赤くして、ほ、他の人が見てるから離れろと言ってとても戸惑っていたようだった。

ルキアは笑顔で謝りながら一護から離れると一護と一緒にみんなのところに戻ったのだった。

今日の事を思い出しながらルキアは立ち上がり、一護のベットの前に立つと、床に膝をついて一護の横顔を見つめた。

すると、タイミングよく、一護が目を閉じたまま体をルキアの方へと向けてきた。
ルキアの目の前に一護の顔が来て、ルキアは少しビックリしたがクスッと嬉しそうに笑って、オレンジ色の髪に触れてみた。

もう乾いているだろうと、思っていたオレンジ色の髪は毛先がまだ湿っていて、どうやら、部屋に入ってすぐ、横になったらしい。

そう考えると一護があの時、自分をどれだけ心配したのかと思うだけで嬉しさが込み上げてきた。


「今日は有難う、お疲れ様・・・今夜は私がやるから、貴様はゆっくり休むといい・・・」


髪を優しく撫でながらそう言うと、ルキアは一護の額に感謝を込めて優しいキスをした。

もし、これで起きてしまったらどういった言い訳をしたらいいのか、その時のルキアは考えていなかった。
ルキアは一護の顔から離れて、眠っている一護に向かって穏やかな表情で微笑んだ。


「おやすみ、私の王子様・・・」


そう言い残すと、ルキアは微笑んだまま部屋のドアまで歩いていき、電気を消すと、静かに涼しい部屋を出て行った。

ルキアが部屋を出て行くと、暗くなった部屋の中でずっと眠っていたはずの王子様が体を起こした。


「・・・てめぇの所為で眠れなくなっただろ・・・」


月明かりに照らされた王子様はりんごのように赤くなった顔を、手で覆いながら閉ざされたドアを見つめていた。

寝ているフリもたまにはいいな。

嬉しそうな笑顔をしている王子様はそう思うと窓から見える月を見上げた。

 

 

 

 

end

 


 

 

 

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