Are you happy?

 


 

12月24日・・・
今日は恋人達や、サンタを信じる小さな子供達などが待ちに待ったクリスマス・イブ。
昼間はあまり感じられないが、夜になると今日はクリスマス・イブなんだと思えるようにツリーに明かりが灯り、雰囲気が漂る。
一週間ぐらい前からライトアップされているツリーだが、今日は一段と凄みをましていた。
今まではずっと光ったままだったのに、光が点滅したり色が変わったりなど見ているだけで楽しめるツリーになっていた。
商店街やデパートなどのお店からクリスマスらしいベルの音や鈴の音などの音色が聞こえてきた。
ところどころでサンタの服を着た人達が立っていて、クリスマスムードがとても感じられる。
そんな中、1人の黒髪の少年が人込みの中を駆け抜けていた。
実はこの少年は大切な人への贈り物を贈ろうと思っていた日、“クリスマス・イブ”をすっかりと忘れていたのだ。


少年の彼女はこういうクリスマスや正月などの祭りごとみたなのや、夏至な各季節の行事みたいなのを忘れないで行うタイプだった。
彼女とは今日で付き合い始めてからちょうど、3ヶ月だった。
この3ヶ月の間にあったハロウィーンと冬至のそれぞれの日に彼女は少年の家に訪れた。
ハロウィーンの日は扉を開けた瞬間、彼女はトリーク オア トリート!と手を出しながら元気よく言われた。
その時はたまたまポケットの中にアメがあったから大丈夫だったものの、もし無かったら何されていたのかと少し不安に思った。
ハロウィーンが過ぎて、クリスマスまではもう無いだろうと思っていながら過ごしていると、冬至の日にまた家のチャイムが突然鳴って、ドアを開けると彼女がまた嬉しそうな顔をしていた。
今度はなんだ?と思っていると、彼女は少年にゆずを渡しにそれ、お風呂の中に入れてね、と言って風のように帰って行った。
母にゆずを貰ったことを話すと、あぁ、今日は冬至だからね、と言って笑っていた。
他にも、合唱コンクールで副実行委員になったり、体育祭でも実行委員になったりと、彼女の行事好きはすごいのだった。
でも、そんな彼女の行動が面白くて、一緒に話しても楽しかったから少年は彼女に気持ちを打ち明けた。
打ち明けた瞬間、彼女は少し驚いた顔をしていたが、すぐにいつもの笑顔となり、少年にとって嬉しい言葉を言ってくれた。
あの日の状況、あの時の気持ちを言ってと言われたら、少年は確実に話せる自身があるほど覚えている。


走っていると、少年は記憶にある1件のアクセサリーショップが目に入った。
その店は前に彼女と一緒に歩いていた時、彼女がこの店のアクセサリーは綺麗だし、可愛いんだよと言っていた。
少年は急いでその店の中へと駆け込んで行った。




とある、人気のない通りに建っている教会が夜だというのに明かりがついていた。
クリスマス・イブだからと思われるかもしれないが、この教会のクリスマス会は明日だった。
明かりが灯るその教会の中で、この教会の牧師の一人娘である少女が歌っていた。
少女の歌声は聞いただけで、誰もが聞きたくなるような綺麗で透き通るような声だった。
透き通るような歌声の持ち主である少女の名は田崎 有樺李(あかり)。
彼女は明日、市内にあるホールでソロで歌うことになっていた。
発表会の前日だから歌詞を間違えて歌っていないかなど、細かいところを楽譜を見て確かめながら有樺李は1人で練習していた。
彼女は女神の歌声を持つ子と言われていた。
去年の合唱コンクールをソロで歌ってみたらとても人気があって、口コミで広まったらしく、手紙などで彼女の歌声を聴きたいという声が多かった。
今年は去年よりすごいだろう、と先生に言われて、有樺李はお客さんをガッカリさせないように歌の再確認や声の調整をしていた。
今、彼女がいる教会は思い出深いところで彼女は歌を歌いながらここである人を待っていた。
彼女の口から発せられる歌声は誰もいないこの教会の中を響き渡っていた。

夢中になって歌い続けていると、有樺李の後ろにある教会の扉が静かに開かれた。
だが、歌に夢中になっている有樺李は扉が開いたことに気付かず歌い続けていた。
扉の中から1人の少年、宮田 崇谷(すうや)が入って来た。
有樺李が気付いていないことに気付くと、静かに扉を閉じて彼女へと足を進めた。
崇谷と有樺李の距離が残り1mぐらいのところでやっと気付いたのか、有樺李は歌いながら後ろを振り向いた。
可憐な瞳が崇谷の姿をとらえると、彼女は微笑み彼の為に歌っているように歌い続けた。
有樺李の歌声が大好きな少年は静かに瞼を閉じて彼女の歌声を聴いていた。
彼女が歌っている曲は英語以外の言葉で少年には何を言っているのかわからないが、彼女がどういう気持ちで歌っているのかは崇谷に伝わってきた気がした。

たまにふと思うことがある。
―彼女は何故、こんなに綺麗な声で歌うことが出来るんだ?
彼女の歌声を聴くたびに気になることだった。
それは崇谷だけじゃなく、彼と有樺李と同じクラスメートの数人も同じことを思っていた。
不思議に思い彼女に聞いてみると、彼女は何度も歌っていればいつかこういう声になるよ、と答えた。
何度も歌っていれば綺麗な声が出るものなのだろうか、と崇谷は気になったがあまり突っ込まないようにした。
歌は綺麗に終わっていき、崇谷は瞼を開いて有樺李に拍手を贈った。
崇谷が拍手を贈ると、彼女は顔をヒメリンゴのように少し赤くさせていた。
歌声について褒められる場面が何度もある彼女だが、やはりまだ慣れていないらしい。

「相変わらずいい歌声だね」
「ありがとう。あ、崇谷!今日は何の日か・・・」
「知っているに決まっているだろ?クリスマス・イブ」
「大当たり!じゃあ・・・」
「はい、プレゼント」

有樺李が待ちに待っていたような目をしようとすると、崇谷はポケットからラッピングされた袋を彼女に差し出した。
差し出されると彼女はきょんとしていた。
崇谷がいらないの、と訊くと、慌てて両手を前に出して少年からラッピングされた袋を受け取った。

「あ、ありがとう・・・」
「予想外だった?」
「う、うん・・・テッキリ、忘れているのかと思っていた・・・」
「クリスマスぐらいは誰だって覚えているよ」
「そ、そう・・・」

プレゼントを受け取る彼女はいつもと比べて少し緊張とした感じだった。
何をそんなに緊張あるいは動揺をしているんだ。
崇谷には理解が出来なかった。
でも、いつもと少し違う彼女と会えたという収穫を得た崇谷にはそんなことはどうでもよかった。

「わ、私からもプレゼント・・・」

思い出したように有樺李は急いで近くの椅子に置いてある小さなバックからクリスマスカラーの袋を取り出し、崇谷に渡した。

「ありがとう、開けていい?」
「うん・・・わたしも開けていい?」
「いいよ」

すでに崇谷は袋を開けてガサガサと音を立てながら、中に手を入れ、中身を取り出そうとしていた。
遅れて有樺李も袋を開けているが、崇谷の反応が気になるのかチラチラと崇谷を見ていた。
中身を掴んだ崇谷はそれを袋から取り出すと、少し驚いた顔していた。
出てきたのはお店で売っているような綺麗な手編みのマフラーだった。

「これ・・・有樺李が編んだの?」
「うん・・・変、だった?」
「別に、有樺李は編物上手なんだね」
「そんなことないよ・・・」

そう言いながらも口を孤の形にしていた。
有樺李も袋を開けて中身を取り出して、掌の上に乗せた。
掌の上には小さな箱が乗っていて彼女は何だろうという顔をしながら箱を開けた。
箱の中には模様が彫られたシルバーの指輪が入っていた。
指輪の模様を見て有樺李はこの指輪が売られている店が頭に浮かんだ。
この指輪はその店に行った時、有樺李がとても気にいっていた指輪で、値段が高く彼女には買えなかった物だった。
いつの間にか、マフラーを首に巻いた崇谷は黙って箱から指輪を取り出して、彼女の左手を取り、そっと指にはめた。
指輪はぴったりと彼女の指にはまった。
有樺李は自分の左手を上げて自分の指にはまっている指輪を見つめていた。

「気にいってくれた?」
「うん・・・これ・・・高くなかった?」
「まぁ、多少はね。でも、気にしなくていいよ」
「・・・ありがとう、崇谷・・・」
「嬉しい・・・」

彼女はそう呟くと、大事そうに左手にはまっている指輪を右手で包んだ。
今の彼女はこれから大好きな人と結婚する人みたいにとても幸せそうな顔をしていた。
照れくさそうな顔をしている崇谷は有樺李に手を差し伸べた。

「行こう。行きたいところ、あるんでしょ?」
「うん!」

有樺李は崇谷の手を取り、崇谷の腕に抱きついた。
少しだけ動揺した崇谷だが、彼女と同じようにとても幸せそうな顔をした。
彼女が抱きついている腕は走って暖かくなった時と違う暖かさを感じた。
2人は静かに北風が吹く、冷たい外へと出た。
だけど、今の2人には北風が吹いても寒さを感じなかった。

だって、こんなにもしあわせなんだから・・・。

 


End

 


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